このプロジェクトは、今年のKYOTOGRAPHIEのテーマである「BORDER」からインスピレーションを受けて制作された新作です。
市場や商店街は、その土地のコミュニティの理想と現実が融合し、濃密で、多様で、豊かで、そして常に活気にあふれている場所です。旅行者が初めて訪れる街で最初に行ってみたいと思う場所のひとつであり、その土地に暮らす人々が日々の生活に必要なものを買い求めるために訪れる場所でもあります。
どの国にも、どの文化にも、独自のマーケットというものがあります。色彩、音、匂い、そしてそこにいる人々の雰囲気は、それぞれ異なっています。しかしながら、すべてのマーケットに共通する要素もあります。それは、地域社会の根源的な精神と奥深いところで結びついているという点です。
シュマリは、京都の出町桝形商店街とコードジボワールの政治経済の中心地であるアビジャンのマーケット、それぞれの店先で撮影された店主たちのポートレート写真を双子のように組み合わせ、ひとつに結び合わせます。そこには、人間性と人情いう人類共通の特質が表現されています。2つの写真の間をカラフルな糸で刺繍することで、日本とコートジボワールの2国間のBORDER=境界線を曖昧にするのです。
刺繍によってイメージをひとつに融合させるというイリュージョン的な手法で、シュマリは想像の中のマーケットを具現化します。そこでは、京都の人々とアビジャンの人々が隣人同士になっています。作品空間の中では、彼らは同じ場所で、互いに肩を並べて働いているのです。個性も文化も異なる人々が共存し、ともに自由を謳歌する──そこには、同じ人間として彼らが共有しているものが、くっきりと浮かび上がっているのです。
▍ジョアナ・シュマリ
1974年生まれ。コートジボワールのアビジャンを拠点に活動するビジュアルアーティスト、写真家。カサブランカ(モロッコ)でグラフィックアートを学び、広告代理店でアートディレクターとして働いた後、写真家としてのキャリアをスタートさせる。主にコンセプチュアルなポートレート、ミクストメディア、ドキュメンタリー写真に取り組む。シュマリの作品の多くはアフリカに焦点を当て、アフリカの無数の文化について学んだことを表現している。主な受賞歴に、「CapPrize Award」(2014)「Emerging Photographer LensCulture Award」(2014)などがある。2019年には、「希望」をテーマにしたシリーズ「Ça va aller」で、第8回「プリピクテ」のアフリカ人初の受賞者となる。著作に『HAABRE, THE LAST GENERATION』(2016)がある。2020年、ハーバード大学ピーボディ考古学・民族学博物館のロバート・ガードナー・フェロー(写真部門)に任命された。