DELTA / KYOTOGRAPHIE Permanent Spaceではイベント、ワークショップ、教育イベントなど、活発で多面的なプログラムを提供する「DELTA Académie」を開催いたします。2025年前期は、久後香純氏をお迎えし4回の連続講義を行います。日本の写真集・写真雑誌が盛んに出版された戦後60年代後半〜 70年代に焦点を当て、写真が単なる表現ではなく、言語や思考に与える影響を見つめ直すと共に、当時の広告、ファッション写真についても広くご紹介いただきます。近年注目されている日本戦後の写真動向を改めて学び、理解を深めることで、現代を見つめ直し、新たな発見へつながるのではないでしょうか。
▍趣旨
1968年11月東京で写真家集団が初の写真集を発表しました。彼らはその写真集を『Provoke:思考のための挑発的な資料』と名付けます。写真集に添えられたマニフェストには、彼らが作り出す写真は写真表現を超えて私たちが日常的に使う言語に影響を与え、私たちの思考を変容させることができると宣言されていました。『Provoke』に代表されるように、この時代の日本では写真集・写真雑誌が盛んに出版され、その出版物は近年世界的に注目を集めるようになりました。本講義では、この時代を代表する東松照明、中平卓馬、多木浩二ら写真家による写真表現に加え、知られていない広告写真やファッション雑誌などの写真も包括的に紹介します。そのことによって、戦後日本の社会的、政治的状況の概観も紹介しつつ、その時代に生み出された写真表現とメディアを紹介します。
▍1960—70年代の日本における写真出版の思想とそのかたち
参加費 (各回):対面参加 1,500円(1ドリンク制)/オンライン参加2,000円
申込先:こちら
会場:DELTA/KYOTOGRAPHIE Permanent Space
(602-0826 京都市上京区桝形通寺町東入三栄町 62)
* 1回のみの参加も可!
▍概要
・第1回
『Okinawa沖縄Okinawa』: 東松照明による米軍基地の写真
日 時:2025年5月6日(月)19:00–20:30
東松照明は1960年代に日本各地の米軍基地を訪れその街と人々の様子を撮影し、それらの写真を「占領」シリーズと名付け『朝日カメラ』に連載しました。その後、そのなかでも沖縄を撮影した写真を再編し写真集『Okinawa 沖縄 Okinawa』を発表します。「占領」シリーズと『Okinawa沖縄Okinawa』の紹介を通して、東松照明という写真家が戦後のアメリカと日本、あるいは沖縄という政治的、社会的課題とどのように向き合おうとしていたのかを検討します。
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・第2回
『写真100年展』:写真の無名化へ向けて
日 時:2025年6月22日(日)19:00–20:30
東松照明ら戦後世代の写真家たちは、写真が個人の「表現」として存在することを否定します。彼らは、写真は作家の表現としてではなく、無名な「記録」として存在するべきだと主張しました。この主張に基づき、彼らが日本全国を駆け巡って集めた無数の写真を用いて作り上げた写真展が「写真100年」展(1969)です。第2回目の講義ではこの展覧会を取り上げ、写真家たちによる作家性を廃した無名の歴史を編む試みを紹介します。
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・第3回
Discover Japan:ファッション・旅行・消費資本主義
日 時:2025年8月3日(日)19:00–20:30
テキスト:第3回目は、1970年の国内旅行キャンペーンDiscover Japanのヴィジュアル・イメージを取り上げます。Discover Japanキャンペーンは、若い女性に向けて日本を旅することによって新しい自分を見つけようと呼びかけ、国内旅行ブームを一気に広げました。an anなどの女性誌は、新しいカラー印刷技術によってこの旅行ブームをさらに広めました。読者の女性たちはどのような写真に惹かれて日本を旅したのでしょうか。
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第4回
『Provoke 1』:多木浩二による物質主義写真
日 時:2025年9月21日(日)19:00–20:30
最終回では、1970年代の日本においてインディペンデントな写真出版がどのような役割を果たしていたのかを検討します。1970年に大阪でアジア初の万国博覧会が開催され、多くのアーティストや知識人がその展示に関わりましたが、その一方で万博反対を標榜したアーティストも数多く存在しました。反万博の立場を取っていたアーティストたちの表現の場の多くは、比較的低予算で実現が可能な自主出版雑誌でした。本講義ではそのなかでも、写真家集団Provokeのメンバーであった多木浩二の取り組みを中心に紹介します。
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▍講師
久後香純|Kasumi Kugo
Ph.D. in Art History
京都大学人間・環境学研究科日本学術振興会特別研究員PD
Graduate School of Human and Environmental Studies, Kyoto University, JSPS Postdoctoral Fellow
美術史研究者。京都大学人間・環境学研究科日本学術振興会特別研究員PD。ニューヨーク州立ビンガムトン大学美術史コースに博士論文「The Theory and Practice of Eizō: Photographic Publications in 1960s’ and 1970s’ Japan」を提出し博士号取得。写真史およびメディア論を専門に研究に取り組む。早稲田大学文学研究科表象・メディア論コース修士課程卒業後、国立近代美術館写真部門や東京都写真美術館でインターン、委託職員を勤めながら研究と執筆活動を始める。その他の主要論文に「「アノニマスな記録」としての写真――1960年代後半から70年代前半における写真のリアリズムについて」『映像学』(2022)がある。
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