本作は、他者と愛情や芸を授受する難しさや曖昧さ、そして道を切り開くたくましさを表現した物語。ある日本舞踊家の人生を演目「連獅子」に見立てることで、葛藤を繰り返してきた内面世界の奥底まで光をあてて表現している。
主人公のやまとふみこさんは、戦後舞踊界が最も栄えた時代に最前線で活躍し、70代後半になった今も現役の舞踊家だ。一般的な女性としての生き方も、尊敬される流派も、表舞台での活躍すらも、全てを捨てた道程は、他の日本舞踊家と大きく異なる。
演目「連獅子」は、中国の伝説「親獅子が子獅子を谷底へ突き落とし、崖を駆け上がる様を見守る」に由来する。これが日本に伝来し、能や歌舞伎、そして日本舞踊など独自の文化の中で発展させた。
楠本が取材中に出会った一枚の写真。そこには幼少期の彼女の全身をえぐるように開けられた虫食いの穴があり、愛情への飢えに苦しんだ当時の彼女を雄弁に語っているようだった。
白色が親獅子、赤色が子獅子。
複写・コラージュ・再現・連想喚起など写真の持つ様々な特性を利用しながら見せる、愛しくも尊い一幕を、どうぞご観賞下さい。