KG+ 2023でDiscovery Awardを受賞した牧野友子の個展「何が良かったのかなんて、にんげん終わってみないとわからないものよ」を開催します。
父の死と母の何気ない言葉をきっかけに、弔うということについて考えを巡らせた作品です。彼女なりの弔い方は、亡くなった人が世に残したものを、その本来の使い方を超えた空想が広がるような生き生きとした作品を作ることです。遺品を箱に仕舞い込み大事にするだけでなく、箱から出し故人に想いを馳せながら制作することによって、そこに新しい考えや命を与えています。見ている人もまた、写真から沸き起こるカラフルなイメージの中で、持ち主の人柄や死後の世界に想いを寄せることができます。それもまた弔いの一つなのだろう。作品が世に残されたものと生きることを繋げてくれているようです。
DELTAでは、彼女の新しい試みとして、この作品を白黒の鯨幕を背景に展示します。
▍牧野友子
1985年宮崎県生まれ。2019年京都芸術大学(旧:京都造形芸術大学)通信教育学部美術科写真コース卒業。宮崎県を拠点に写真活動を行なっている。
2019年IG Photo Gallery(東京・銀座)、2023年GOOD NATURE STATION 4F Gallery(KG+)にて同展示を開催。KG+2023にてDiscovery Awardを受賞。
https://www.tomoko-makino.com/
▍インタビュー
▍このシリーズ作品では、鮮明なカラーやライティング・フラッシュが使われていることが印象的ですが、イメージの作り方について少し具体的に教えてください。
遺品をテーマにするとなると物撮りということになりますので、当初は石内都さんのようにシンプルに遺品を撮るということも考えていたのですが、父の遺品をただ撮ることに何の意味があるのだろうと疑問に思っていました。そこで母が言った「何が良かったのかなんて、人間終わってみらんとわからんもんよ」という言葉によって“人の死=悲しいこと”という常識を疑うようになり、一気に作品の方向性が定まった記憶があります。結果としてその言葉は、のちに作品のテーマに繋がり、タイトルにもなりました。
ライティングは写真家のうつゆみこさんにSNSでダイレクトメールをし、面識もないのにマンツーマンのライティング講座をお願いし、自宅でできるライティングの基礎を学ばせていただきました。うつさんには遠く及びませんが、どこかシュールなイメージはうつさんの影響も大きいと思います。画角内にどう配置するのか、どういったライティングをすべきか、実際に何枚も撮ってみて徐々にアイテムを追加したり背景色を変えたりして作り上げていきました。アイデアはなぜか、運転中やお風呂に入っているときに思いつくことが多かったことも興味深かったです。
▍木で額装されていますが、素材と額装仕様の選択にこだわりがありましたか?
この作品を見た方から、「お父さんと遊んだんですね。」と言われたことがあります。娘が天国のお父さんと遊び戯れた作品だと。実は生前の父のことはあまり好きではなかったのですが、亡くなってしばらくしてから会いたくてしょうがなくなった時期がありました。作品を作ることで父と戯れた、遊んでもらったなと思います。この木の額装はその「遊び」の延長でもあります。作品自体も遊びの要素がありますが、プロにお任せして作っていただく額装に比べ、自身の手で作った不細工な額がぴったりだと思っています。木で作ることや素材にこだわりはありませんが、昔から丈夫で扱いやすい木でテーブルなどをDIYする趣味がありました。その感覚で木という素材を選び、自身で設計して制作しました。額装までを一つの作品と捉えていただけると嬉しいです。
▍お父さまの遺品からどんな風に着想を得たりイメージを膨らませたりしたのでしょうか?
父の遺品は母の手によって多く処分され、残された物が少なく、イメージを膨らませるのに苦労しました。日常生活を送りながら、あれはどうかな、これはどうかなと考えていたので、日常的なシチュエーションが多いように思います。食べ物を多く使っていることも、日常生活から生まれたアイデアだからだと思います。実際に遺品を触って、色々な角度から見つめることで、イメージを作っていくと共に、父はこれをどう使っていたのだろう、どうしてこれを買ったのだろう、などと父を想う時間を過ごせました。
▍今回のDELTAでの展示プランについて、また見どころについて教えてください。
以前よりやってみたいと思っていた、鯨幕を背景に展示させていただけることになりました。鯨幕はお葬式のイメージもありますが、慶事にも使われることもあり、この作品にぴったりだなと思っています。白黒の鯨幕と、カラフルな作品との調和を楽しんでいただけたらと思います。